The DIDO& ÆNEAS Project
”ディドとエネアス”

Enrique Mazzola
エンリケ・マッツォーラ

   
Enrique Mazzola
 
   
2002年 第27回モンテプルチアーノ国際芸術祭 総合プログラムより
     

あるバロックオペラの《プロジェクト》

穏やかで、優しく微笑みを絶やさず、たくさんのことを教えてくれてかつ見返りを決して求めることもなく、そして忘れがたい、この地方の文化人たる男ポリツィアーノはこのオペラのタイトルに《プロジェクト》と冠することに祝福を送ってくれるだろう。

このような古い音楽、劇場作品に関しても昔からの慣習にとらわれることなくオープンな議論が出来て革新的な実験ができるイタリアでも数少ない場所がこの国際芸術祭であり、ここはフェスティヴァルの外観を持っているが、実は実験工房なのである。

その実際を《ディドとエネアス》の作品の持つ本来のアイデンティティを越すものを再構成しようとするこの《プロジェクト》で説明しよう。

日本から来た若い女性ばかりの学生グループはここイタリアでイギリスのバロックオペラの練習に取り組んだ。
英国の弦楽器奏者たちは現代の楽器でいかに当時のテクニックを再現するかという(いまや年季の入った問題ともいえる)事に関して意見をたたかわせた。 
若いトッリータの合唱メンバーは言葉の響きを研究し、歌うということについて探求した。
また若い打楽器奏者たちは、その時代の人々に浸透していたダンスのリズムや当時の太鼓について調べ上げた。
モンテプルチャーノ音楽学校のコンピューター音楽専攻クラスはこのオペラの合唱の助けにもなる、全編を通しての効果音作りに貢献してくれた。

結果? 結果など存在しない。 他のプロジェクトと呼ばれるものと同様、ひとつの結果はまた次の結果をもたらす要因になる。
多分今回がこの《プロジェクト》の決定版になるということはあるまい。それはこの国際芸術祭自体が変化し続けるのと同じように。                            

  芸術監督 エンリケ・マッツォーラ

訳:河野典子